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ポイント

〜災害における企業の法的義務(安全配慮義務)〜

東日本大震災での裁判例から学ぶ

先述の2つの判例からもわかるとおり,企業等は災害時においても,従業員や顧客等の安全と健康を守る義務があることについて,裁判所も認めています。しかし,この2つの判例の大きな違いは,企業等がその個別具体的な危険の発生を合理的に個別具体的な予見できたか否かの違いです。

企業等は危険を予見できる範囲において,十分な災害対策を施していなければならない義務を生じていますが,予見できないレベルの危険が発生した場合,企業に対して責任を追及することは難しいということでもあります。

前述した2つの判例のうち,前者の銀行では,防災マニュアル等様々な災害対策を講じておりましたが,「危険の予見ができないほど大きな津波に巻き込まれたことにより安全を確保するのが難しく,行員を死亡させてしまった」という事実であり,よって被告たる銀行は損害賠償の責任を免れていますが,後者にあっては,幼稚園は「大きな地震が発生すれば津波が発生し得ること及び津波が発生した場合低地に行けばその津波に被災する危険」を予見することができ,よって幼稚園の過失により園児を死亡させた」として幼稚園が安全配慮を怠ったとして敗訴(最終的に和解)しています。

大企業においては,防災マニュアルを制定し,避難訓練なども定期的に行い,社内に備蓄をしている企業も少なくありません。しかし,それらが,その土地や環境において合理的に判断した上での危険の予知を行い,それに対応する災害対策かと聞かれたらどうでしょうか。安全配慮義務は,個別具体的な就労環境をもとにした個別具体的な危険を予見し,それを防止するための個別具体的な措置を取るべき義務である以上,どこかのマニュアルを準用して運用するのではなく,その場所,環境等に鑑み,しっかりとリスク分析した上で実効的な災害対策を構築しておかなければなりません。

さらに,中小企業の実態はといえば,多くの企業では,防災マニュアルも備蓄も存在しないのではないでしょうか。

災害は,いつ発生するか分かりません。労働者は多くの時間を会社で過ごします。労働者が勤務中に被災した場合,企業は労働者を生命,安全,そして健康を守るため,様々な対策をしておかなければならないのは言うまでもありません。

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